【106万円の壁×最低賃金】パートの就労調整を防ぐ!人手不足を乗り切る賃金・評価制度の見直し

2026年10月より、地域別最低賃金が全国加重平均で「1,177円」へと改定されます。過去最高水準の引き上げが続く中、多くの経営者様や人事責任者様が頭を悩ませているのが、「時給を引き上げたことで、パート・アルバイト社員が『106万円の壁』を意識してシフトを減らしてしまう」という就労調整(働き控え)の問題です。

人手不足を解消するために時給を上げたはずが、結果として一人あたりの労働時間が短くなり、現場のシフトが回らなくなるという皮肉な現象が全国の企業で発生しています。さらに、パートの時給上昇に伴い、「責任の重い正社員の基本給と時給換算額の差が縮まり、正社員のモチベーションが低下する」という二次的な課題も浮き彫りになっています。

最低賃金の引き上げと社会保険適用拡大(106万円の壁)のダブルパンチを乗り切るために必要なのは、単なる「急場しのぎの時給アップ」ではありません。従業員の役割(期待成果)を明確にし、働けば働くほど評価され納得感が生まれる「賃金・評価制度の再設計」です。

本記事では、2026年10月の改定を踏まえた就労調整のメカニズムと、パート・正社員の双方の意欲を引き出して生産性を高めるための実務的な対応策を解説します。

1.なぜ時給が上がると「人手不足」が深刻化するのか?

最低賃金の改定に伴い時給を引き上げる際、企業が直面する「106万円の壁」の構造を整理しておきましょう。

(1)年収上限に達するスピードの加速

年収「106万円」を超えると、パート・アルバイト社員は配偶者の扶養を外れ、自ら社会保険料(健康保険・厚生年金)を負担することになります。社会保険に加入すると手取り額が年間で十数万円減少するため、多くの短時間労働者は年収を106万円未満に抑えようとします。

時給が上がると、同じ時間働いた場合により早い段階(秋口〜冬場)で106万円の制限に達してしまいます。その結果、年末の繁忙期に向けて「これ以上シフトに入れない」という就労調整が発生し、企業の人手不足に拍車がかかるのです。

(2)「正社員」と「パート」の給与逆転・不公平感の拡大

最低賃金の上昇に合わせてパートの時給だけを引き上げると、正社員の給与(時給換算額)との差が極めて小さくなります。「自分は責任の重い業務や残業をこなしているのに、パートさんと時間単価がほとんど変わらない」という不満が正社員に蓄積し、離職やエンゲージメント低下の原因となります。

2.応急処置では限界!「手当の支給」だけでは解決しない理由

就労調整を防ぐための対策として、政府による「年収の壁突破ご支援強化パッケージ」や企業独自の「社会保険手当の支給」などが活用されています。しかし、これらはあくまで一時的な手当に過ぎません。

手当を支給して手取りの減少を補填したとしても、「自分がどのような期待をされ、どう貢献しているのか」という評価基準が曖昧なままでは、社員の働く意欲(モチベーション)は高まらないからです。

本質的な解決を目指すのであれば、手当による穴埋めではなく、「短時間で働くパート層にもキャリアや成長のロードマップを示し、自走してもらうための評価・賃金制度」へとアップデートする必要があります。

3.就労調整を防ぎ生産性を高める「賃金・評価制度」見直し4つのステップ

最低賃金の上昇と106万円の壁を機会と捉え、組織全体の生産性を高めるための具体的な制度再設計のプロセスを解説します。

ステップ1:パート・アルバイトの「役割等級(レベル分け)」の導入

パート・アルバイトを一括りに「時給〇〇円」と設定するのではなく、業務の熟練度や責任の範囲に応じた「等級制度(レベル分け)」を導入します。

  • レベル1(初級):指示された基本業務を正確にこなすレベル
  • レベル2(中級):自発的に判断し、新人の指導や複雑な業務をこなせるレベル
  • レベル3(上級):店舗やチームのリーダーとして、時間帯の運営や業務改善を担うレベル

各レベルごとの時給幅(昇給ルール)と期待される役割をクリアにすることで、「時間を抑えて働く働き方」だけでなく、「レベルを上げて社会保険に加入し、しっかり稼ぐ働き方」という選択肢を提示できるようになります。

ステップ2:「正社員登用制度」と評価基準の連動

「106万円の壁を超えてしっかり働きたい」と考える優秀なパート層に対して、正社員や地域限定正社員(短時間正社員)へスムーズにステップアップできる登用ルートを整備します。

登用の基準を感覚や好みに頼るのではなく、「自社の行動指針(バリュー)を体現できているか」「評価制度で一定以上の評価を得ているか」という客観的な基準と連動させることで、社内の納得感を高めます。

ステップ3:正社員の「基本給・役割手当」の再設計

パートの時給底上げに伴う正社員の不公平感を解消するため、正社員の賃金テーブルも見直します。

単に基本給を一律で引き上げる資金的余裕がない場合は、「成果や役割に応じた役職手当・職務手当の拡充」や「バリュー(行動指針)評価に基づく基本給の昇給幅の最大化」を行います。「責任を果たし、成果を出している人が報われる仕組み」を明確に提示することが重要です。

ステップ4:1on1面談による「働き方の意向確認」とシミュレーション

制度を整えた上で、現場の管理職がパート社員一人ひとりと1on1(面談)を実施します。

「社会保険に加入して将来の年金を増やしながら、より高い役割(上位等級)を目指したいのか」「ご家庭の事情で扶養内での勤務を希望するのか」という意向を個別にヒアリングし、手取り額のシミュレーションを示しながら、双方にとって最適な働き方をすり合わせます。

4.最低賃金改定を「強い組織づくり」のターニングポイントにする

2026年10月の最低賃金改定は、経営者にとって確実にコスト負担が増大する厳しい局面です。しかし、「人件費が増えた」と悲観するだけでは何も変わりません。

コストの上昇を吸収するためには、従業員一人ひとりが与えられた役割を理解し、主体的に動いて高い付加価値を生み出す「自走する組織」へ脱皮することが不可欠です。

経営者が抱く「どのような組織を目指したいか」「社員にどのような貢献を期待しているのか」という想いを言葉にし、それを評価・賃金制度というカタチにして現場に定着させる。これこそが、時給の条件勝負に巻き込まれず、優秀な人材を引き寄せて成長し続けるための最短ルートです。

5.まとめ:急場しのぎを脱し、活きた人事制度の構築へ

最低賃金1,177円時代における人手不足と就労調整の課題は、個別の手当支給などの応急処置だけでは防ぎきれません。

・パート・アルバイトの役割(等級)を明確にし、ステップアップの道筋を作る
・正社員とパートの役割と評価基準を再設計し、組織内の納得感を保つ
・1on1を通じて個人のキャリア意向と会社の期待値を丁寧にすり合わせる

今回の賃金改定を機に、自社の評価・賃金制度を根本から見直し、社員一人ひとりが「働く喜び」を感じながら正当に評価される組織づくりへを踏み出してみてはいかがでしょうか。


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