【2026年10月改定】最低賃金1,177円時代を乗り切る!中小企業が取り組むべき「賃上げ×人事制度」の再構築
2026年10月より、地域別最低賃金が全国的に改定されます。全国加重平均額は前年度から56円引き上げられ「1,177円」となり、過去最高水準の改定が続いています。
このニュースを受けて、多くの経営者様や人事責任者様からは「また人件費が上がる」「これ以上、時給を上げたら利益が残らない」という困惑の声が聞かれます。特に、大手企業のような資金力に頼った引き上げが難しい中小企業にとって、相次ぐ最低賃金の改定は死活問題と言えるでしょう。
しかし、ここで目を背けてはならない現実があります。それは、「時給を上げなければ人は来ないが、ただ時給を上げるだけでは会社が破綻する」という二重苦です。
賃金の改定期を迎えた今、中小企業が取るべき道は「時給の条件勝負」に巻き込まれることではありません。最低賃金の引き上げをきっかけに、自社の「評価・賃金・採用」の構造そのものをアップデートし、生産性とエンゲージメントを高める仕組みを作ることです。
本記事では、10月の最低賃金改定に伴う実務的なチェックポイントから、賃上げを乗り越えて「活きた組織」をつくるための人事戦略まで、詳しく解説します。
1.2026年10月改定のポイントと自社への影響
まずは今回の最低賃金改定における全体像と、自社の給与体系に与えるインパクトを整理しておきましょう。
(1)全国加重平均1,177円への引き上げ
今年度の改定では、都道府県ごとの引き上げ額にバラつきはあるものの、全国加重平均で56円の増額となりました。主要都市部では時給1,200円〜1,280円台へ突入し、地方部においても大幅な引き上げが行われています。
この改定はパート・アルバイトの時給だけでなく、正社員の基本給(時給換算額)にも直接的な影響を及ぼします。
(2)最低賃金の「計算対象となる賃金」の再確認
最低賃金を下回っていないかをチェックする際、支給している手当のすべてを算入できるわけではありません。以下の手当は最低賃金の対象から除外して計算する必要があります。
- 結婚手当などの臨時に支払われる賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 時間外労働、休日労働および深夜労働の割増賃金(残業代など)
- 精皆勤手当、通勤手当および家族手当
特に月給制の社員の場合、「基本給 + 役職手当」などの対象賃金を「1か月平均の所定労働時間」で割り、その金額が所在地の最低賃金額を上回っているかどうかの厳密な計算が必要です。
(3)求人原稿・雇用契約書の改定コスト
既存社員の賃金改定はもちろんのこと、採用活動中の求人原稿、募集要項、雇用契約書(労働条件通知書)の時給表示を速やかに更新しなければなりません。発効日以降に旧最低賃金のまま雇用を継続した場合、最低賃金法違反となるため注意が必要です。
2.「時給を上げれば解決する」という誤解と罠
最低賃金の上昇に合わせて「周囲に合わせて時給を〇円上げよう」と急場しのぎの対応をする企業は少なくありません。しかし、賃金アップ単体で課題を解決しようとすると、以下のような深刻な副作用を引き起こします。
罠1:既存社員との「給与逆転・逆平準化」によるモチベーション低下
新しく採用するパート・アルバイトの時給を最低賃金に合わせて引き上げた結果、長年勤めているベテラン社員の時給と差がなくなってしまうケースです。「自分は長年貢献してきたのに、入社したばかりの新人と同じ時給なのか」という不満が広がり、優秀な既存社員の離職を引き起こします。
罠2:時給アップが「定着」や「成果」に繋がらない
「時給を上げたから、もっと頑張ってくれるだろう」という経営側の期待とは裏腹に、給与の引き上げだけで社員のエンゲージメントが上がることは稀です。賃金は「不満を解消する要素(衛生要因)」ではあっても、「やる気を引き出す要素(動機づけ要因)」ではないからです。仕事の意味や評価基準が曖昧なままでは、人件費だけが増えて生産性は上がらないという最悪の状況に陥ります。
罠3:採用の「条件合戦」で大手企業に負ける
時給の高さだけをアピールして求職者を集めようとすると、資金力のある大手チェーンや競合他社に必ず負けます。仮に時給で勝ったとしても、「より時給が高い別の職場」が見つかればすぐに離職してしまう、定着率の低い組織になってしまいます。
3.最低賃金引き上げを機会に変える「3つの人事戦略」
迫り来る賃上げの波を乗り越え、持続可能な組織をつくるためには、単なる「コスト増への対応」ではなく「人事制度の再構築」として捉え直すことが不可欠です。
戦略1:賃上げに見合う「業務効率化」と「役割の明確化」
人件費の上昇を吸収するためには、組織全体の生産性を高めるしかありません。そのためには、各社員の「役割(等級)」と「期待される成果」を明確に言語化することです。
「誰がやっても同じ作業」を整理し、デジタルツールの導入や業務フローの見直しによって効率化を図る一方で、「価値を生み出す業務」に集中できる環境を整えます。時給が上がる分、どのようなスキルや行動を求めるのかをオープンにし、個人の成長と業務の質の向上をセットで推進します。
戦略2:業績向上と連動する「活きた人事評価制度」の導入
時給や基本給を底上げするのであれば、それに見合う成果や努力を正しく評価する仕組みが必要です。評価制度が形骸化していると、「頑張っても頑張らなくても同じ給与」という不公平感が生まれます。
経営ビジョンや創業の想いから逆算した評価項目を設計し、数字による成果だけでなく、「自社の行動指針(バリュー)に沿った行動ができているか」を評価に組み込みます。頑張りが正当に評価され、それが給与や昇進に反映される納得感があれば、社員は自走し、賃上げ以上の付加価値を生み出すようになります。
戦略3:「条件」ではなく「理念・成長」で惹きつける採用への転換
最低賃金額の上昇により、どの企業も一定の給料水準を提示せざるを得なくなっています。言い換えれば、「給料の差」で差別化することが難しくなったということです。
これからの採用活動で求職者を引き寄せるのは、「自社が何を目指しているのか(ビジョン)」「どのような想いで仕事をしているのか(理念)」「ここで働くことでどのような成長が得られるのか」というストーリーです。
自社の魅力やカルチャーを言語化し、共感した人物を採用(理念共感型採用)することで、給与条件だけに依存しない、定着率の高い強い組織を作ることができます。
4.現場で「活きた制度」にするための定着化アプローチ
新しい評価基準や給与体系を整えても、現場で運用されなければ意味がありません。最低賃金改定を機に人事制度を見直す際は、以下の運用支援をセットで行うことが重要です。
1.評価者(管理職・リーダー)のトレーニング
制度を実際に動かすのは現場の管理職です。評価者が評価の目的や基準を深く理解し、部下に適切にフィードバックできる技術を身につけなければなりません。「なぜこの評価なのか」「今後どう成長してほしいのか」を対話できる評価者を育成します。
2.1on1ミーティングの継続的な実施
評価を年に数回の「査定」で終わらせず、月1回や隔週での1on1ミーティングを通じて、日々の成長課題や悩みを吸い上げる機会を作ります。上司と部下のコミュニケーションが活性化することで、賃金に対する納得感が深まり、早期離職を防ぎます。
3.経営理念を現場に浸透させるリーダー育成
経営者の想いを汲み取り、現場のメンバーに噛み砕いて伝えられる中堅リーダーの存在が、組織の拡大と安定には欠かせません。制度の運用を通じてリーダー層のマネジメント能力を引き上げ、組織全体のエンゲージメントを高めていきます。
5.まとめ:最低賃金引上げを、強い組織へ脱皮するターニングポイントに
10月からの最低賃金改定は、経営者にとって頭の痛い課題であることは間違いありません。しかし、ただ「人件費が増えた」と嘆くのか、それとも「組織の生産性と人事制度を根底から見直す機会」と捉えるかで、1年後・3年後の企業の姿は大きく変わります。
・最低賃金のクリアは当然の前提として、既存社員の賃金バランスと役割を再設計する
・単なる給与の底上げではなく、業績向上と社員の成長がリンクする「活きた評価制度」を動かす
・条件勝負を脱し、自社の理念やビジョンに共感する人材を惹きつけて育てる
自社の想いをカタチにし、現場で働く一人ひとりが「働く喜び」を感じながら成果を出す組織づくり。その一歩を、今回の賃金改定という機会から踏み出してみてはいかがでしょうか。
【最低賃金改定に伴う給与体系の見直し・人事制度設計のご相談はこちら】
MAUE-HRbaseでは、最低賃金引き上げに伴う賃金テーブルの再設計から、経営理念に沿った評価制度の構築、現場への定着・評価者研修まで一貫してサポートしております。「賃上げを機に評価制度を見直したい」「条件に頼らない採用戦略を立てたい」という経営者様・人事担当者様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


